5/3(火)トークイベントレポート【ゲスト:松江哲明監督】

5/3(火・祝) ポレポレ東中野 18:00の回終了後に
ドキュメンタリー監督の松江哲明さんをゲストにお迎えしてトークイベントを開催致しました。
その内容を対談形式でお届けします


<登壇者(左から):松江哲明さん(ドキュメンタリー監督)、冨永昌敬さん(本作監督)、坂本雅司さん(本作プロデューサー)>
 
坂本:お二人は大体同世代ということで、キャリアも近いのでしょうか
 
冨永:(松江監督の方が)ちょっと先輩ですね
 
松江:でも年齢は冨永さんの方が上ですね
 
冨永:僕の方が二つ上なんですけど、学校を出た年は一緒です。
でも松江さんのことを先輩と思っているのは卒業するときにもう『あんにょんキムチ』でデビューしていて。
そのちょっと後に会ったんですよね
 
松江:そうですね。ぼくは冨永さんの『ビクーニャ』という作品がアテネ・フランセ文化センターで上映しているときに観に行って。
いろんな知り合いから「冨永さんが面白いよ」って聞いていました
 
冨永:そういう出会いがあってから、その後松江さんがどういうものを作っているのか気になっている人でした。
近年僕もドキュメンタリーをやる機会が増えたので、やっぱり一番意識するというか。半歩先に行かれているなっていう思いで見てました
 
松江:僕は冨永さんのドキュメンタリー映画はすごく好きで、劇映画と同じような映画のリズムで作っているのがすごいなって。
冨永さんはビデオで撮るのが早かった人だなって思っていたし、たぶん同世代でビデオの編集を完全に自分のものにしている人は冨永監督が最初っていう印象があるんですよ
 
冨永:ちょうど僕らが学校を出たころって境目でしたもんね
 
松江:そうですね。フィルム行くかビデオ行くかっていう。
ぼくはドキュメンタリーをビデオで撮っていたし、ビデオで行くぞって覚悟を決めていたんですけど
冨永さんはフィルムの代わりじゃなくてビデオでしかできないことをやっているのが同世代的だしすごいなって思ってます
 
冨永:編集ってどのくらいまで編集すればいいのかっていつも思っていて。
本作も劇映画じゃないから、撮影も編集もやろうと思えばいくらでもできるけれど、選んでいかなきゃいけない。
逆にフィルムだったら死んでたなって
 
松江:フィルムは撮れたものを大事にしていかなきゃいけないですからね
 
冨永:本作は自分が撮ったもの以上に、生前の赤塚さんの音声や写真がものすごく重要なものとして先ずあって。
題材が既に亡くなっている人だから、どういう風にしたらこれは現在作った作品になるのかってところで
今思うとインタビューというのが、この作品の中にある現在ってことになるのかなって
 
松江:なるほど
 
冨永:基本的にはプロデューサーの坂本さんがインタビューをして、僕は撮影をメインに相手の顔をずっと見ていたので、顔の方が印象的です。
あと撮りながらずっとメモをしていて…
 
松江:現場でメモしていたんですか?
 
冨永:後でパッと見てわかるようにメモしていたんですけど、慣れてないから掻い摘んでメモとっていたのが逆に役に立っていたなって
 
松江:ドキュメンタリー撮っている人で初めて聞きました、カメラ回しながらメモとる人って。すごいですね
 
冨永:自分でも書いていくうちに要約するのがうまくなりました
 
松江:冨永さんって劇映画でもそうですけど、生のものをそのまま使うんじゃなくて自分の中で要約したりコラージュしたいのかなって
クレジットの書体も含めて全部自分のものにしたいのかなって気がするんですよね
 
冨永:それはちょっとした自信の無さもあって、いろんなことやらないとお客さんに満足してもらえないじゃないかって。
だから書体もちゃんと見てもらえるように弄ったりして、やらないと気が済まないんです
今回はやっぱり赤塚不二夫さんが既に多くの人に知られている有名な人だから
観る人だって赤塚さんのことを知っているわけじゃないですか。そういうお客さんに改めてどういう見せ方をすればいいのかなっていうのは考えました。
それに僕らは赤塚さんのマンガというよりかは本人の印象が強いじゃないですか
 
松江:そうですね、仮装大賞とかですよね
 
冨永:だからマンガもすごかったと思うけど、自分に正直に赤塚不二夫さんのことを考えると、
知っている人物像としては仮装大賞の審査員やっているご本人だなって。で、実際に取材をしてみたらやっぱりご本人のことがすごく大きかったなって
 
松江:でも、そういう印象の取材になったのは、ご本人が亡くなっている後に行ったからかなって思います
 
冨永:僕はドキュメンタリー映画は3回目なので、そんなに経験があるわけではないんですけれど
本人がいないというのはこんなに大きなことなのかと。松江さんはどうでしょうか?
 
松江:僕が最初に作った『あんにょんキムチ』は亡くなった祖父を描いた映画でしたし、
林由美香さんの『あんにょん由美香』もですけど、基本的に亡くなった人を映画にした作品が多いんです。
亡くなった人を撮る時に”この人はこういう人でした”って経歴だけ追っても、それは年表を書いているような作業になってしまって。
亡くなっている人って描きやすいけれど、結末が見えてしまうじゃないですか
 
冨永:なるほど
 
松江:でも普通のドキュメンタリーって結末は見えないところが面白いと思うんです。”こういう話になるのかな?”ってところから外れていく部分が
ドキュメンタリー映画の物語だけに強く影響されない特有の面白さなんじゃないかなって僕は思うんですけど、
亡くなっている人だとどうしてもラストが見えちゃう…
 
冨永:もう物語があるってことになっちゃいますもんね
 
松江:そうなんですよね。物語だけじゃないものを撮りたいのにも関わらず、どうしても物語に引っ張られてしまうっていうのが難しさですよね。
でも僕の場合は『あんにょんキムチ』では亡くなった祖父を通して自分を撮るっていうのがテーマでしたし
『あんにょん由美香』では亡くなった人が残した映画をどうやって最後撮るかっていう、その人のこと以外にもう一つ何かが無いと、ただの伝記映画になってしまうので。
ただ今作は観ていて、映っている人みんなが赤塚さんの作品というか、赤塚さんを経過してきた人ってそのエネルギーみたいなものが継承されるんだなって思って、
今作を観た後だと、だから『おそ松さん』って今、こんなにウケているのかなって思いました。
赤塚さんが直接描いたものではなくても、キャラクターだったり志を継承すれば赤塚不二夫作品ってまだ続いていくんだなって
 
冨永:例えば最近だと『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』とか『山田孝之の東京都北区赤羽』とか、見ていて松江さんらしいなって思ったんですけど、
これはフィクションですって言いながらもやっぱりドキュメンタリーだなって思うのは、カメラの前に出来事が起こるように作為的にしているじゃないですか。
だからドキュメンタリーとか劇映画とか関わらず、いまカメラの前でやろうとしていることが面白くて美しいってとこまで持っていけるのがすごいと思うんです。
 
松江:僕がそういうの好きなんですよね。ドキュメンタリーってカメラの前で起きたことに対して、芝居がどうとか駄目なものが写ったからNGとかじゃなくて、
撮れたものを絶対肯定するというか、そういうものが撮れれば撮れるほどドキュメンタリーって面白いなって思うんです。
 
冨永:松江さんは自分でカメラの前で何か起こるように演出するじゃないですか
 
松江:だからドキュメンタリー監督の先輩とかに”お前がやっていることはドキュメンタリーじゃない”って怒られたりしますね 笑
 
冨永:そうなんですね 笑
 
松江:カメラの前に起きるように待つのがドキュメンタリーなのにお前は空気を作り過ぎているって 笑
でも作らなきゃ起きないだろって思ったりもするので、そういう腕力系は好きですね
 
冨永:で、今作の話に戻るんですけど、今作はロケとかにも行ったりしましたけど
基本的には赤塚不二夫さんのことを話をしてくれている人にはカメラを向けていたのが殆どだったので、
そこに松江さんのように何か起こるように演出するのは出来ないじゃないですか
 
松江:でも逆に例えば僕がこの企画を撮るとしたら、こういう作りにはできないと思うんです。
僕は今作でも映像が使われていた赤塚不二夫の『激情No1』が好きですごく影響を受けているっていろんなところでも公言しているんですけど、
赤塚不二夫さんがマンガのルールをマンガで壊すってだけじゃなくて、ご本人が出てきて生でやるっていうのが衝撃的だったんです
 
坂本:実は赤塚不二夫の『激情No1』を某テレビ局で再現しようかってアイデアがあって相談した時に
テレビプロデューサーに当時の番組を見せたら”まったくわかんない”って言われて。そういうのはわかる人とわからない人がいるんだなって
 
松江:『激情No.1』は当時の放送でもわかんない人っていたと思うんですけど、今はわかんないって時点でシャットアウトされてしまうじゃないですか。
そこがもったいないと思いますね。あと今のテレビってオチとフリを気にするけれど『激情No.1』ってカオスなままを流しちゃうっていうのが映画とテレビの違いだと思います。
テレビって流した瞬間から全て現在のものとして、見ている人がどう受け止めるのかっていうキャッチボールは
映画よりもやりやすいと思うんですね。だから『激情No.1』って僕が最初に観たときは映画館での上映だったんですけど、
あれを何も知らずにテレビで見ていたら一番ショックを受けていたでしょうね。そういうものって今のテレビにはないものだから、赤塚不二夫さんってすごいなって思いますし、
自分でもやりたいなって思います
 
冨永:あの番組を作った佐藤輝さんがインタビューで”映像は面白ければそれでいいんだ”ってその言葉が印象的でそれが全てだなって思いましたね。
あと自分だったら自分は何をすればいいか聞くけれど、赤塚さんは何も聞かないでそのまま出てきたり、つまり赤塚不二夫さんって仲間に頼まれたら断らなかったんじゃないかって。
だから他の活動も、どちらかというと周りの人があれやりましょう、これやりましょうっていうのに乗っかっていったんじゃないかなって。
そうじゃないとあそこまで幅広くできないんじゃないかなって思うんです。で、その中で自分の意思を固めていったんだと思うんです。
だから『私…』の中の「もっともっとナンセンスの極地を極めて、自分がマンガを描くことだけじゃなくて演じることだっていい」って言葉は
この映画の中で絶対に使わないといけないと思ったんです
 
松江:今は何が面白くて、どう面白いのかを説明しないといけない時代ですけど、
バスターキートンの影響というか、面白いということに考えるというよりは、パッと即効性でやれるってところが、赤塚さんらしいことなんじゃないのかなって
 
冨永:面白いっていうのが多様化していて「こういう意味では面白い」っていうように細分化が進んでますけれど、
昔は”面白いって一個でしょ、コレでしょ”っていうように愚直に追求していたんじゃないかなって思うんです
 
松江:そうですね
 
冨永:坂田さんが「赤塚先生はアヴァンギャルドでしたよ、ナンセンスのアヴァンギャルド」って劇中で言っていたけれど、
アヴァンギャルドって言葉もアリですけど、面白いことに意味があってはいけないっていう空気があったころにナンセンスって言葉ができたのかもしれないって思います
 
松江:僕も「面白い」って思うものを番組とかでやっているんですけど、自分個人で作る分には説得する必要はないんですけど、
それがどんどん不特定多数に広がると、これがどう面白いのか説明する必要が生まれちゃうじゃないですか
 
冨永:いっぱいありますね
 
松江:だからこの時代に赤塚さんの映画とか作られて観る意味って、今の時代にはないものだと思うし憧れはあるけれど、
だからと言ってそれを昔話にしてあの頃は良かったってことにするんじゃなくて、なんで今こういう人がいないのかとか
あの時こういうことができたのかって考えることが大きいと思うんですよね。
赤塚不二夫さんはそれこそ日本中を相手にして自分が面白いというものを説得するエネルギーがあったんだなって、それはすごいなって思います
 
冨永:インタビューを受けてくれた皆さんは、赤塚さんのことを話すのが楽しい!って感じがすごく伝わってきたんです
 
松江:みなさんホントそうですよね。話しているのを見ていると。
 
坂本:ホントに愛があふれているというか、話していると止まらなくなっちゃって。編集がえらい大変になっちゃうんですが、
その熱量に毎回泣きながら聞いているって感じでしたね
 
松江:一個聞きたかったんですけれど、今回の作品はアニメーションを多用しているじゃないですか。それは最初からあったんですか?
 
坂本:そうですね。昔の写真はたくさんあるんですが、古い映像は無かったのでそこを補完する意味も含めて、狙ってやりましたね。
 
冨永:特に前半ですけれど、年代記として赤塚不二夫さんはこんな人でしたっておさらいというか、
いろいろな本とかに文字では残っていたりするんですけれど、写真や音声は全ての時代にあるわけではないので
ズバリこうでしたって一目でわかってもらえるようにアニメを使ったという感じですね
 
松江:でも普通のアニメの使い方じゃないですよね。映像に対して突っ込みを入れているというか。完全に新作のアニメーションはまた別個に作っているという感じですよね
 
坂本:有名なバカボンとかのアニメって赤塚さんの原作ではあるけれど赤塚作品ではないんですよね。
だからそれを使ってしまうと引っ張られてしまうので、あくまでも赤塚不二夫の伝記ですっていうときに、
全く違うテイストでしかもナビゲーションする役割として入れないと難しいかなっていうところからのアイデアですね
 
松江:実は冨永さんがこの作品にアニメーション使っているって聞いてちょっとゾっとしたんです。
それは僕がドキュメンタリーをアニメーションで作りたいっていうのがずっとあったので、似てしまったらどうしようと思っていたんですけど、
作品見て、僕が考えている使い方とは違ったので安心したのですが、僕が今度アニメーションを使ったドキュメンタリー作品を公開したら
あ、勉強したなって思ってくださいというか、使い方は違うけど、先にやられちゃったなって
 
坂本:一番インスパイアされたのはモンティパイソンのアニメーションが先にアイデアとしてあったんです
 
松江:あーなるほど。でもアニメーションとドキュメンタリーって相性いいなって思っていたんですけど、
日本のドキュメンタリー監督って素材を大事にする人が多いので
 
冨永:最初、モンティパイソンのアニメを意識していたので、写真とか静止画の顔だけくりぬいて、インタビューしている人の顔を入れようと思って
あとで抜きやすいように背景とかライティングとか気にしていたんですけど、作業量考えたら恐ろしいことだと気づいて、
途中から普通に良いインタビューにしようってシフトしたんです 笑
 
松江:そうだったんですね 笑
でもやっぱりアニメーションとドキュメンタリーってホント相性がいいと思っていて。
ドキュメンタリーって撮れたものが現実って思われがちだけれど、例えば思い出話とかも事実に対して誰かが見た記憶をしゃべっているんですよね。
だからその時点で誰かの主観とかフィクションが加わっているんです。
フラッシュバックメモリーズ3D』を撮ったときにその人の脳内をアニメーション化したのも
観ている人のイメージする現実というのが必ずしも正解ではないので、
アニメーションにすることで語っている人のイメージを提示できれば、よりその人の主観に近づけるなって思ったんです。
特に手描きのアニメーションの場合、どうしても未完成な部分というか余白が残るので、そういう風に使うと
インタビューをまとめるとかっていうドキュメンタリーの手法と近い気がして、だから再現映像を使うならアニメーションを使いたいって思っているんです
 
冨永:その頭の中のイメージをっていうのはすごく面白くて。
ちょっと違うかもしれないけれど本作でも、例えば篠原有司男さんが「赤塚さんがNYへ来たのは刺激を受けたかったからでは」って言ったあとに
武居俊樹さんが「そんなことは無いと思う。赤塚さんに影響を与えるものなんてないと思う」って同じ問いかけに対して全く逆の意見が続くんですけれど、
二つ違う意見が出てくるとやっぱり後に出てきた意見の方が、制作側が狙ったものになっちゃう気がして、
ホントはもう一個別の意見が欲しかったなって思いました
 
松江:後から言った意見の方が強く聞こえちゃいますもんね。
本当は正解を求めるのじゃなくて、二つの意見を聞いて「じゃあどっちなんだろう?」って考えるのが面白さであって、
だから冨永さんがあと一個欲しかったっていうのも、より混乱させたいってことですよね
 
冨永:そうですね。だから「影響を受けたのかもしれないし、影響を受けてないのかもしれない」って言ってくれる人いたら一番良かったんだけれど
なかなかそんなに都合よく言う人いないですからね。だから順番っていうのは大切ですよね
 
松江:そうですよね。現実に聞いた通りにつなげるのか、編集の時に変えるのかっていうのは大切ですよね
 
坂本:そろそろお時間となるんですが、お二人はドキュメンタリー作品を多数撮ってきた監督ということで、お互いじっくり話したかったということで…
 
冨永:ホントありがとうございました。
僕の方が松江さんより長生きすることがあったら松江哲明のドキュメンタリーにぜひ出て「こんな人でした」って証言しますよ
 
松江:いや撮ってくださいよ! 笑
僕は冨永さんに撮ってもらえるなら死ぬときにちょっと気持ちが軽くなるので!
 
坂本:話は尽きないですが、本日はありがとうございました
 
冨永:ありがとうございました
 
松江:ありがとうございました
 
 
本作の裏話からドキュメンタリー映画について、そしてドキュメンタリーとアニメーションの組み合わせについてなどなど
とても濃いトークとなりました。松江監督ありがとうございました!

2016.06.29

5/21(土)トークイベントレポート【ゲスト:しりあがり寿さん】

5/21(土) ポレポレ東中野 19:00の回終了後に、漫画家のしりあがり寿さんをゲストにお迎えしてトークイベントを開催致しました。
その内容を対談形式でお届けします


<登壇者:左:しりあがり寿さん(漫画家)、右:坂本雅司さん(本作プロデューサー)>
 
坂本雅司(以下、坂本):しりあがりさんは幼いころから赤塚マンガを読まれていたと思うんですけれども、
一番初めに読んだのはどの作品でしょうか。
 
しりあがり寿(以下、しりあがり):一番最初は「おそ松くん」とかだと思うんですけれど、一番好きだったのは「まんがNo.1」ですね。
マンガよりも記事が好きで。こんなふざげていいのか、と。
 

坂本:映画でも少し取り上げてはいるんですけれど、改めてご紹介すると「まんがNo.1」は
1972年から約半年間、赤塚さんがプロデュースしたマンガ雑誌です。もうカルト雑誌というか、そうとう実験的なことをしていて
今読んでも面白いんですよね。創刊号は横尾忠則さんの3枚の表紙というとても贅沢な雑誌だったんですね
 
しりあがり:僕は中学校の時の修学旅行にわざわざ持っていて友達に読ませたんです。こんなに面白い雑誌があるんだって
 
坂本:そうなんですね。さらにソノシートが毎回ついていて井上陽水さんの曲がついていたりするんですね。
しりあがりさんはいろんな方のマンガを読まれていると思うんですけれど、赤塚マンガからの具体的な影響はあったんですか?
 
しりあがり:やっぱり「まんがNo.1」のパロディーであったり、あるいはバカボンの実物大マンガとか”メタ”な発想のマンガが好きだったんです。
マンガって例えば海賊の世界とか壁の向こうから巨人がやってくるような、あり得ない世界に没頭させるのが大切じゃないですか。
でも赤塚さんは”それってたかがマンガじゃない?”っていうふうに外から見せてしまうんですよね。実物大マンガや吹き出しの中に字じゃなくて絵を入れたり。
要するにマンガの中に没頭している読者を引きずり出してこれマンガなんだよって開いた視点を持ったギャグなんですよね。それが好きだったんです。
 
坂本:なるほど
 
しりあがり:僕が出てきたのも「ヘタウマ」っていう流れなんですけれど、それも言ってみれば描いてあるものだけじゃなくて
描いている人がヘタだっていう一回り外から見て笑う作業ですよね。そういう”没頭するなよ、開こうぜ”っていうようなものに影響を受けているなって思います。
 
坂本:バカボンで左手で描いた回がありましたけれど、それなんかは走りだった気がしますね。
 
しりあがり:そうですね。「ヘタウマ」が日本で出てきた1977年ってイギリスだとセックス・ピストルズがデビューしたりとパンクロックが流行した年で
そういう下手じゃないと表現できないもの、テクニックがあればいいっていうわけじゃないものが発見された時期なんですよね
 
坂本:シンクロしているんですね。少し話は変わりますがしりあがりさんの代表作で「東海道中膝栗毛」を題材にした「真夜中の弥次さん喜多さん」がありますが
赤塚さんの絶筆も「東海道中膝栗毛」を題材にした作品といわれていて、非常に奇妙な符号というか。
しりあがりさんはなぜ「東海道中膝栗毛」を題材に描かれたんでしょうか。
 
しりあがり:ものすごく便利な入れ物なんですよね。男と女だとついその間の恋愛を描いてしまいがちだし、男一人だと話し相手がいなくて退屈なので、
男二人っていうのはすごくちょうどいいんです。で、その二人が宿を転々としていくのはデタラメな話を描くのにすごく良い入れ物なんです。
僕の描いた話は片方がヤク中で現実か嘘かわからないって、食べ物に例えたら山芋みたいなもんなんです
 
坂本:笑
 
しりあがり:ドロドロってしてそのままじゃ食べれないけれど、弥次喜多って入れ物にいれるとちゃんと食べられる。入れてもかゆいですけどね 笑
 
坂本:みなさんにもぜひ読んでいただきたいんですが、喜多さんがヤク中のゲイカップルっていうとんでもない設定で、
しかも第5回手塚治虫文化賞・マンガ優秀賞を受賞されているんですよね。
 
しりあがり:赤塚さんの絶筆の弥次喜多もちゃんとゲイなんですよ 
 
坂本:原作がたしかそうなんですよね
しりあがりさんは漫画家の他にアート活動もされていますが、「ゆるめ~しょん」というアニメーションも作られていますよね。
これはどういった経緯で作られたんでしょうか。
 
しりあがり:これはアニメーションの制作依頼がきたんですが、カット割りや中割りもできないので、
ソフトの普及で実写のトレース(ロトスコープ)だったら出来ると思ってやったんです。
これはラッキィ池田さんが実際にダンスしてくださったのを撮影して上からトレースしたんですが、
トレースならできると思っていたんですがガタガタになってしまって、結局バイトの人に時給でやってもらいました。
 
坂本:多少はご自身でも描かれているんですか?
 
しりあがり:顔だけですね 笑
これくらいなら5分くらいで描けます。
 
坂本:なぜこの話をしたかというと本作の「マンガをはみだした男」というタイトルのように、私が一番興味のあったのはマンガを離れた部分で、
学生のころに見ながら、山下洋輔さんや筒井康隆さんのような、大人がバカバカしいことを真剣になってやっているのがかっこいいと思っていて
いつか大人になったらあの仲間になりたいと思っていたんです。
 
しりあがり:全く同じですよ。ぼくは大学生のころに全日本冷やし中華愛好連盟とかすごく好きで。ああいうの羨ましかったですよね。
面白いっていろいろあると思うんですけど、安心も必要だけれどやっぱり新鮮さも必要だと思うんですよ。
もっと新しいことを、みたいに求めてゆくとマンガじゃおさまらなくなるんですよね。
 
坂本:ちょうど7月から、しりあがりさんの展覧会が始まりますよね。
 
しりあがり:「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」って名前で、いろいろなものを何でも回していて現代美術って言ってますけど
現代美術じゃないと思うんですよね。
 
坂本:なるほど
 
しりあがり:自分の中ではマンガを拡張したつもりなんです。でもだからと言ってこれは本にはならないし、ぼくの展覧会だと原画展だと思われるので
わざわざ現代美術って書いているんです。
 
坂本:赤塚さんもパフォーマンスやアートをマンガとは別にやってきた人ですけど、
しりあがりさんの活動を見ていると、もしかしたら赤塚さんがやりたかったことをやっている人なのかなって
 
しりあがり:いやいや、逆に僕の方は赤塚さんがやっていたことより何回りも小さいというか。あんなに予算ないですからね 笑
あとあんなにお酒飲めないですね、好きですけれど。でも飲みたくなる気持ちってわかりますよ。
新しいものを探そうとするときに、自分の中に何かあるんじゃないかなって思っちゃうんですよね。お酒飲むと普段隠れてる自分の中の何かが出てこないかな?って期待するでしょ。
 
坂本:しりあがりさんの最近の作品はギャグとは少し離れた終末感漂うお話が多いですが、ご自身の中で変化があったんでしょうか
 
しりあがり:ギャグはもう20年前からあんまりちゃんとは描いてないんです。
笑いって大切だけれど笑えるには世の中には安定して豊かじゃないと商売にならないじゃないですか。だからダメになってく世の中を見て、笑ってる場合じゃないな、みたいな。
「方舟」とか「徘徊老人ドン・キホーテ」とかってヤバいよ、こうなっちゃうよ、みたいな暗いマンガばっかりずっと描いていたんです。
で、3.11が来てもう暗いマンガはいらないなって思って、明るいマンガを描きたいと思ったんです。
 
坂本:赤塚さんがギャグのある意味極北まで行ったと思うんですけれど、しりあがりさんの最近の作品を読むとその先を開拓されている気がするんですね。
それはもうギャグですらないというね。
 
しりあがり:そうですね、でもやっぱり笑えないとね。笑いって難しくて、さっき驚きが大切だって言いましたけれど、安心も大切なんですよね。
脳学者の人に脳の働きとして笑いってどんな役割ですか?って聞いたときに教えてもらったんですけれど、安心したときに笑いって出るそうなんです。
じゃあなんでスラップスティックとか人が失敗したり危険な目にあうもので笑うんですかって聞いたら、あの人は危険な目にあっているけれど自分は大丈夫だって笑うんです。
酷いですよね 笑
 
坂本:それで安心するんですね 笑
 
しりあがり:子供も大人が失敗すると笑うじゃないですか。あれも俺の方がうまくできるぞってことなんでしょうね。
笑いってその自分は大丈夫ってことと驚きがセットになっているんですよね。だから難しいんですけれど、驚くにしてもどこかにベースは必要で
あるリアリティをベースにして変なことをしないと笑いにならないんです。
例えば赤塚さんの後期の作品とか、僕もそういうところあるんですけれど、どんどん面白いことをしようとしてベースがなくなってしまうんですよね。
そうすると自分ではベースがあるつもりなんだけれど、それはとても狭いものでわかる人も限られてしまう。だから新しさと安定感という共通の足場みたいなもののバランスは難しいですね。
 
坂本:変貌していくことで常に新しいことを開拓しているってことでもありますよね。
しりあがりさんの作品の表紙は、本作のポスターやパンフレットもデザインして頂いた祖父江慎さんと一緒にやられていますよね。
 
しりあがり:祖父江とは多摩美の漫研で同じだったんですけれど、祖父江ばっかり赤塚さんと会ってしかも映画にまで出やがって…!ってちょっと嫉妬しているんです 笑
でもホント祖父江って赤塚さんのキャラクターみたいですよね。
 
坂本:ホントそうですよね。というところで本日はありがとうございました
 
しりあがり:ありがとうございました。
 
 

場内では終始笑いが漏れるにぎやかな雰囲気でしたが、同時に人間の脳内における笑いの役割や、赤塚作品のメタな笑いについてなど、何度もなるほど!と膝を打ってしまうトークとなりました。
しりあがり寿さんありがとうございました!
 
しりあがり寿さんの展覧会の詳細はこちら▼
しりあがり寿の現代美術 回・転・展

2016.06.22

メディア情報

6/14(火)に兵庫県のエフエム局Kiss FM KOBE「4SEASONS」という番組で
元町映画館のスタッフさんに本作を紹介して頂きました。

2016.06.15

メディア情報

6/11(土)の朝日新聞佐賀版にて本作を取り上げていただきました。
佐賀県のシアターシエアでは6/17(金) 6/24(金)までの上映です。

20160611朝日新聞佐賀版

2016.06.13

ポレポレ東中野トークイベント情報

ポレポレ東中野でのトークイベントの開催が決定致しました。
 
                 ***
 

◆『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』ポレポレ最終日豪華トーク!!
日時:6/17(金)20:50の回上映後終了致しました
【登壇者】 赤塚りえ子(フジオ・プロ代表、現代美術家) × 冨永昌敬(監督)  (敬称略)
 
場所:ポレポレ東中野
東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下
TEL:03-3362-0081 FAX:03-3362-0083
HP : http://www.mmjp.or.jp/pole2/

 

料金:通常料金
一般:1800円/大・専・シニア:1300円/高校生以下:700円/夫婦50割引:2200円

 

2016.06.10

【自主上映】2016年8月27日(土)鳥取県東伯郡湯梨浜町

【上映会 『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』】
 

あつーい夏に、涼しい松ゼミで、マンガ界イチ面白い男の人生をのぞいてみませんか?
この映画をセレクトした動機は、とにかく「おもしろそう!」だから。
バカのパイオニアって?めちゃくちゃな「表現の自由」?アニメーションたっぷりのドキュメンタリー!?タモリが主題歌?!
自称・社会派カルチャースクールで、こんなにおかしな映画をやっていいのか。いやいや、おかしなことにこそ、社会はしっかりとひそんでいる。

http://matsuzemi-cs.tumblr.com/post/147393010250
 
◆上映日:2016年8月27日(土)
◆場所:松崎ゼミナール1F
〒689 – 0711 鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎349-1
http://www.matsuzakiseminar.com/
◆上映時間:
①開場:10時00分/上映:10時30分
②開場:15時30分/上映:16時00分
◆上映時間:1,200円+1ドリンク(中学生以下は入場無料、ドリンク代のみ)
◆定員:20名程度・予約制
 

◆予約・問い合わせ:松ゼミ カルチャースクール
Mail:matsuzaki.seminar★gmail.com(★⇒@)
Tel:0858-41-1068
メールの場合、件名を「8月の上映会予約」とし、本文に下記を明記の上ご予約ください。
・氏名
・お電話番号
・ご希望の上映時間(①か②)
・複数名の場合、ご予約人数

 
※その他・予約状況など詳細は、主催者までお問合せください。

2016.06.10

更新情報

劇場情報を更新致しました。
 

下記の劇場での上映が決定致しました。
■7月30日(土)~
岡山県 シネマ・クレール
■8月20日(土)~
宮崎県 宮崎キネマ館

■8月27日(土)~
愛媛県 シネマルナティック
 

 

その他の劇場情報はこちら

2016.06.09

メディア情報

6/18(土)から始まる兵庫県の元町映画館さんでの上映に向けて、
ラジオ関西「谷五郎のこころにきくラジオ」にて
本作の紹介もしていただけることとなりました。
 

日時:6/6(月) 13:40頃~予定
番組:ラジオ関西「谷五郎のこころにきくラジオ
 

※放送日程は予定のため予告なく変更する場合があります。ご了承ください。

2016.06.06

下北沢トリウッドトークイベント情報

下北沢トリウッドでのトークイベントの開催が決定致しました。
 
                 ***
 

○トークイベント!
プロデューサーの坂本雅司さんをお招きし、異色のアニメーション×ドキュメンタリーとなった本作の舞台裏をお伺いします!
 
日時:6/25(土)18:00の回上映後終了致しました
ゲスト:坂本雅司さん(本作プロデューサー)
 
場所:トリウッド
〒155-0032
東京都世田谷区代沢5-32-5-2F
TEL 03-3414-0433 FAX 03-3414-0463
HP : http://homepage1.nifty.com/tollywood/

 

☆イベント限定!特別リピーター割やります!
イベントのある6/25(土)18:00の回限定で、リピーター割を実施します!
前回鑑賞時の半券、もしくは鑑賞が証明できるものを受付で提示された方は一般料金が半額の900円に!
 
※半券等はトリウッド以外の劇場のものでも対象となります。
※割引はイベント回の一般料金のみ対象です。
※ゲストは予告なく変更になる場合がございますのでご了承下さい。

2016.06.05

更新情報

劇場情報を更新致しました。
 

下記の劇場での上映が決定致しました。
■6月26日(日)~
神奈川県 シネマアミーゴ
 

■7月23日(土)~8月5日(金)
大分県 日田シネマテーク・リベルテ
 

 

その他の劇場情報はこちら

2016.06.03

メディア情報

【ウェブ】
■「おそ松くん」生んだ天才ギャグマンガ家 赤塚不二夫さんのドキュメンタリー、関西へ
http://www.cinepre.biz/archives/19772
 

【雑誌】
・キネマ旬報5/6発売号 星取りレビュー
・THE DAY 5月24日発売号
 

【新聞】
・しんぶん「赤旗」日曜版 5月1日号
・朝日中高生新聞 5月29日号
 

【テレビ】
TBS「王様のブランチ」5/7放送
 

【ラジオ】
ABCラジオ「橋詰優子の劇場に行こう!」5/15放送

2016.06.01

京都みなみ会館 トークイベント情報

映画「マンガをはみだした男 赤塚不二夫」の京都での公開を記念して
京都みなみ会館にてトークイベントと舞台挨拶の開催が決定致しました。
 
                 ***
 


◆6/25[土] 15:55の回上映後 トークイベント
終了致しました
【登壇者】ミズモトアキラさん、堀部篤史さん
 
恵文社一乗寺店]で行われていた体験型トークイベント「ビッグ・ウェンズデー」でお馴染みのお二人が登場!
DJ、編集者として、多方面で活躍中のミズモトアキラさんと、
新しい書店&ウェブショップ[誠光社]を立ち上げた堀部篤史さんに、赤塚不二夫とタモリについてのあれこれを、たっぷり語って頂きます!

 
◆6/26[日] 20:00の回上映後 舞台挨拶
【登壇者】坂本雅司さん(本作プロデューサー)
 
http://kyoto-minamikaikan.jp/archives/26978
 
場所:京都みなみ会館
〒601-8438
京都市南区西九条東比永城町78
TEL:075-661-3993
HP : http://kyoto-minamikaikan.jp/
鑑賞料金:一般1,800円/学生1,500円/シニア1,100円/会員1,200円 

 
                 ***
 

※上記内容は全て予定です。日時や登壇者など予告なく変更となる場合がございます。
※チケットの販売や詳細について劇場へお問い合わせください。

2016.06.01