5月7日(土) ポレポレ東中野 19:00の回終了後に
でんぱ組.incやPUFFYをはじめ様々なアーティストを手掛ける音楽プロデューサーのもふくちゃん/福嶋麻衣子さんをゲストにお迎えしてトークイベントを開催致しました。
その内容を対談形式でお届けします。
<登壇者:左:もふくちゃん/福嶋麻衣子さん(音楽プロデューサー)、右:坂本雅司さん(本作プロデューサー)>
坂本:もふくちゃんこと福嶋麻衣子さんは、今大人気のでんぱ組.incを見出した音楽プロデューサーで、秋葉原のディアステージやDJクラブ モグラの立ち上げなど、幅広く活動されている方です。
赤塚不二夫先生の作品はいつ頃から読んでいたのでしょうか?
福嶋:小学生ぐらいのときに年の離れた姉の影響で「天才バカボン」を読んでいたり、
あとはリメイク版アニメ「おそ松くん」とかは見ていたんですけど、いつからというよりかは自然に家にあったという感じです。
坂本:なるほど
福嶋:改めてきちんと作品として向き合ったのは、大学時代に宮沢章夫さんの課外授業を受けていたので、マンガ史やポップカルチャー史なども勉強し、改めて「レッツラゴン」などを授業で学んだりして。
この人なんで、マンガ家だったんだろうなっていう印象でした。
坂本:たぶん世代的に「レッツラゴン」を読まれることって少ないと思うんですね。当時は絶版だったので。
ところで、でんぱ組.incは、オタクカルチャーとしてだけじゃなくて、サブカルチャーのミックスが凄いなと思いました。
福嶋:最初は一番遠いところと遠いところを持ってこようというアイデアがあって。
当時、正統派なアイドルしかいなかったので、ハイアートの文脈でアイドルが出てきたら面白いなって思ってそういう試みで、一時期秋葉原でやっていました。
だから自分の中でアートとサブカルチャーが地続きというか、自然とでんぱ組.incの音楽性やアートワークにそういうものが入ってきたのかなって。
坂本:宮沢章夫さんが講師で出演されているNHKのニッポン戦後サブカルチャー史(2014年放送)にもご出演されていましたよね。
宮沢さんには本作の制作の際に、少しご協力して頂きました。
今日、なぜもふくちゃんをお呼びしたのかというと、今話題になっているテレビアニメ「おそ松さん」について、オタクカルチャーの人達がどのように見ているのかを聞いてみたかったんです。
福嶋:もちろんオタクの女の子にはウケていると思うんですけど、「オタクの女の子」って定義自体が違うというか。
私くらいの世代で昔から私は腐女子ですっていうコアな人達は割と冷ややかな目でみているんじゃないかなって。
ただ一番すごいのは、ライトな子達がみんな大好きになっちゃってて。
いま私が手がけているアイドルの子達はほとんどが大好きなので抗議したいくらいです 笑
坂本:基本は10代の子たちなんですか?
福嶋:そうですね。10代の子達ほど、ハマっているなっていう印象です。
坂本:実は「おそ松さん」が放送したときには、既に映画の撮影が終わり編集をしていたのですが、第一話を見て衝撃を受けて、取材しなくてはと速攻でインタビューを申し込んだんです。
藤田監督は、幼い頃「天才バカボン」と「おそ松くん」の全集を親戚の叔父さんから貰って読んでいたそうなんですね。
だからこそ、赤塚不二夫のDNAを継承したのだなと思いました。
福嶋:そうなんですね。でもたぶんそうじゃないとあそこまで変えることができなかったんだと思います。だからそのイズムは受け継がれている人なのかなって感じました。
坂本:もふくちゃんのご両親は赤塚不二夫さんの人生に近いと聞きました
福嶋:そうですね。私の祖母が満州から1~2才だった私の母を連れて日本に引き揚げてきたんです。
祖父はもう戦死をしていたので、小さい子供がいる状態で、途方に暮れたそうです。
だから赤塚先生の人生とかを見ていると、戦争というのが作品に影を色濃く残しているのがわかるなって。
坂本:少し話は変わりますが、赤塚さんの時代はある意味自由というか、めちゃくちゃだったと思うんですが、表現者として最近の状況はどうでしょうか。
福嶋:絶対、今だったら怒られることしかないですよね。これアウトでしょって表現もあるかと思うんですけど、社会的にも許すムードがあったのかなって。今は不謹慎とかちょっと息苦しい感じがありますよね。
だから赤塚さんが今、生きていたらどうなるんだろうなって思ったりしますよね
坂本:バカボンのパパは、当時小学生が読む雑誌連載にも関わらず、結構人を殺してますからね。
福嶋:そうですよね。あと今の時代だったら差別といわれるような言葉も結構出てくるんですよね。
でも戦争体験を経てあの昭和の時代を生き抜いてきたから言える言葉というか。今の時代にも赤塚さんのような自由な人がいたらいいなって思います。
坂本:私の会社の新入社員で、赤塚さんのマンガやアニメを知らない世代が入社したことに衝撃を受けて。せめて自分が体感した赤塚不二夫の面白さを何か残した方がいいなっと考えたのが、本作を作るキッカケになったんです。
福嶋:ウナギイヌやバカボンなど有名キャラクターや言葉は独り歩きしてみんな知っていたりしますけど、マンガっていうところにはたどり着きにくいのかもしれないですね。
坂本:ただ「おそ松さん」現象もあって、電子書籍で売れているようです。約50年前の作品が、多くの若者が読んでいるのは驚きですよね。
福嶋:「おそ松くん」は当時は主人公が同じ顔でしかも6人いたってマンガの常識を覆したっていう新しさが、今の時代に全く違うこととして受け入れられているっていうのが皮肉というか再発見というか。
ボーイズラブが好きな人にとって、同じ顔でひとつ屋根の下で住んでいるシチュエーションや関係性が萌えにつながって受け入れられていることを赤塚先生に見てもらいたかったなって。
坂本:賛否両論ではあるみたいですが、でもこのくらい大胆にアレンジしないと意味がないというか、大成功だったと思います。
もふくちゃんは「おそ松さん」現象についてはどのように見ていますか
福嶋:若い子達が喜んでいるポイントってキャラクター同士の相関図だったり、キャラクター性っていうところで、そういうところに現代性を見出した目を付けた企画の勝利というか。これから生まれていくコンテンツのヒントになっているんじゃないかって。おんなじ顔で良いんだって 笑
坂本:なるほど
福嶋:今までどんなコンテンツでもキャラクターって、顔も変えて髪型も変えて、住んでいる家も違うしってなっていたけれど、顔も一緒で住んでいる家も一緒だと、
もはや関係性とキャラの性格のコントロールに特化したところで、みんながあれだけ妄想を掻き立てて泣いたり笑ったりするっていうのが新しい発見じゃないかって思っていて、
受け手側の想像力の時代に本格的に突入したんだなっていうのは思います。
10代の女の子達って息を吸うように自分たちで物語を妄想して補完することができるから、これからのコンテンツの作り方が変わっていけばいいなって。
おんなじ顔をコピペして、セリフだけ変えていったら萌えるんだっていうような「おそ松メソッド」が今回発見されてしまったんじゃないかって 笑
坂本:ビジネスチャンスですね 笑
今回私が「おそ松さん」を見ていてサブカルチャーの感じがすごくするところに惹かれていて。
福嶋:そうですね
坂本:今回の藤田監督へのインタビューやキャラクターデザインの浅野直之さんとお話したりして、お二人ともすごくレイヴカルチャー好きらしくて、
その影響がポップでサイケデリックな色合いだったりお話の飛び方だったりと、ベースはオタクカルチャーにあってもサブカルチャーをすごくうまく引用していると思うんですね
福嶋:それはヒントだと思いますね。「おそ松さん」もメタな視点がよく出てきますよね。私もアイドルの歌詞ではかなりメタな視点は意識していました。
それに今ニコニコ動画なんかで若い子たちが「メタい」って言葉を使っているんですよ。
若い子たちがメタっていうことに対してナチュラルに会話していることが私にとって衝撃的だったんです。
そういう「メタい」ってことがサブカルとかアニメだったりが流行るポイントなのかなって思います。
オマージュ文化というかメタな視点をうまく作品に入れ込むことが若い人に限らずいろんな人にウケているのかなって思います。
坂本:最後に本作を含めて赤塚不二夫さんについて感じたことなど教えていただけますか
福嶋:(赤塚さんの)生涯について非常に興味深く思っています。
戦争体験を経て同世代の作家さんがシリアスだったり、明確に戦争反対を描いた作品を描いていたのに対して、
彼がギャグを選んだっていうのは実は社会に対する暴力性があったんじゃないかなって。
最後まで彼がアナーキーな人だったと思うんですね。
だからそのギャグの暴力性っていうのは今の時代一番忘れられているような気がしていて。
社会に対する反抗を何で表現するかって時にみんないろいろな方法でやっていると思うんですけど、
その中でギャグを選んだっていうのは赤塚さんの優しさであったり、面白さであり、発見だったと思うんです。
暴力に対して笑いで返す、そのギャグが実は一番暴力的だったりして、でもすごく優しい暴力性というか、かっこいいなって思います。
坂本:本日は本当にありがとうございました
福嶋:ありがとうございました
テレビアニメ「おそ松さん」を中心にアニメやアイドル、音楽などのカルチャーについて濃い内容のトークとなりました。
福嶋麻衣子さんありがとうございました!
16.05.30