5/21(土) ポレポレ東中野 19:00の回終了後に、漫画家のしりあがり寿さんをゲストにお迎えしてトークイベントを開催致しました。
その内容を対談形式でお届けします
<登壇者:左:しりあがり寿さん(漫画家)、右:坂本雅司さん(本作プロデューサー)>
坂本雅司(以下、坂本):しりあがりさんは幼いころから赤塚マンガを読まれていたと思うんですけれども、
一番初めに読んだのはどの作品でしょうか。
しりあがり寿(以下、しりあがり):一番最初は「おそ松くん」とかだと思うんですけれど、一番好きだったのは「まんがNo.1」ですね。
マンガよりも記事が好きで。こんなふざげていいのか、と。
坂本:映画でも少し取り上げてはいるんですけれど、改めてご紹介すると「まんがNo.1」は
1972年から約半年間、赤塚さんがプロデュースしたマンガ雑誌です。もうカルト雑誌というか、そうとう実験的なことをしていて
今読んでも面白いんですよね。創刊号は横尾忠則さんの3枚の表紙というとても贅沢な雑誌だったんですね
しりあがり:僕は中学校の時の修学旅行にわざわざ持っていて友達に読ませたんです。こんなに面白い雑誌があるんだって
坂本:そうなんですね。さらにソノシートが毎回ついていて井上陽水さんの曲がついていたりするんですね。
しりあがりさんはいろんな方のマンガを読まれていると思うんですけれど、赤塚マンガからの具体的な影響はあったんですか?
しりあがり:やっぱり「まんがNo.1」のパロディーであったり、あるいはバカボンの実物大マンガとか”メタ”な発想のマンガが好きだったんです。
マンガって例えば海賊の世界とか壁の向こうから巨人がやってくるような、あり得ない世界に没頭させるのが大切じゃないですか。
でも赤塚さんは”それってたかがマンガじゃない?”っていうふうに外から見せてしまうんですよね。実物大マンガや吹き出しの中に字じゃなくて絵を入れたり。
要するにマンガの中に没頭している読者を引きずり出してこれマンガなんだよって開いた視点を持ったギャグなんですよね。それが好きだったんです。
坂本:なるほど
しりあがり:僕が出てきたのも「ヘタウマ」っていう流れなんですけれど、それも言ってみれば描いてあるものだけじゃなくて
描いている人がヘタだっていう一回り外から見て笑う作業ですよね。そういう”没頭するなよ、開こうぜ”っていうようなものに影響を受けているなって思います。
坂本:バカボンで左手で描いた回がありましたけれど、それなんかは走りだった気がしますね。
しりあがり:そうですね。「ヘタウマ」が日本で出てきた1977年ってイギリスだとセックス・ピストルズがデビューしたりとパンクロックが流行した年で
そういう下手じゃないと表現できないもの、テクニックがあればいいっていうわけじゃないものが発見された時期なんですよね
坂本:シンクロしているんですね。少し話は変わりますがしりあがりさんの代表作で「東海道中膝栗毛」を題材にした「真夜中の弥次さん喜多さん」がありますが
赤塚さんの絶筆も「東海道中膝栗毛」を題材にした作品といわれていて、非常に奇妙な符号というか。
しりあがりさんはなぜ「東海道中膝栗毛」を題材に描かれたんでしょうか。
しりあがり:ものすごく便利な入れ物なんですよね。男と女だとついその間の恋愛を描いてしまいがちだし、男一人だと話し相手がいなくて退屈なので、
男二人っていうのはすごくちょうどいいんです。で、その二人が宿を転々としていくのはデタラメな話を描くのにすごく良い入れ物なんです。
僕の描いた話は片方がヤク中で現実か嘘かわからないって、食べ物に例えたら山芋みたいなもんなんです
坂本:笑
しりあがり:ドロドロってしてそのままじゃ食べれないけれど、弥次喜多って入れ物にいれるとちゃんと食べられる。入れてもかゆいですけどね 笑
坂本:みなさんにもぜひ読んでいただきたいんですが、喜多さんがヤク中のゲイカップルっていうとんでもない設定で、
しかも第5回手塚治虫文化賞・マンガ優秀賞を受賞されているんですよね。
しりあがり:赤塚さんの絶筆の弥次喜多もちゃんとゲイなんですよ
坂本:原作がたしかそうなんですよね
しりあがりさんは漫画家の他にアート活動もされていますが、「ゆるめ~しょん」というアニメーションも作られていますよね。
これはどういった経緯で作られたんでしょうか。
しりあがり:これはアニメーションの制作依頼がきたんですが、カット割りや中割りもできないので、
ソフトの普及で実写のトレース(ロトスコープ)だったら出来ると思ってやったんです。
これはラッキィ池田さんが実際にダンスしてくださったのを撮影して上からトレースしたんですが、
トレースならできると思っていたんですがガタガタになってしまって、結局バイトの人に時給でやってもらいました。
坂本:多少はご自身でも描かれているんですか?
しりあがり:顔だけですね 笑
これくらいなら5分くらいで描けます。
坂本:なぜこの話をしたかというと本作の「マンガをはみだした男」というタイトルのように、私が一番興味のあったのはマンガを離れた部分で、
学生のころに見ながら、山下洋輔さんや筒井康隆さんのような、大人がバカバカしいことを真剣になってやっているのがかっこいいと思っていて
いつか大人になったらあの仲間になりたいと思っていたんです。
しりあがり:全く同じですよ。ぼくは大学生のころに全日本冷やし中華愛好連盟とかすごく好きで。ああいうの羨ましかったですよね。
面白いっていろいろあると思うんですけど、安心も必要だけれどやっぱり新鮮さも必要だと思うんですよ。
もっと新しいことを、みたいに求めてゆくとマンガじゃおさまらなくなるんですよね。
坂本:ちょうど7月から、しりあがりさんの展覧会が始まりますよね。
しりあがり:「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」って名前で、いろいろなものを何でも回していて現代美術って言ってますけど
現代美術じゃないと思うんですよね。
坂本:なるほど
しりあがり:自分の中ではマンガを拡張したつもりなんです。でもだからと言ってこれは本にはならないし、ぼくの展覧会だと原画展だと思われるので
わざわざ現代美術って書いているんです。
坂本:赤塚さんもパフォーマンスやアートをマンガとは別にやってきた人ですけど、
しりあがりさんの活動を見ていると、もしかしたら赤塚さんがやりたかったことをやっている人なのかなって
しりあがり:いやいや、逆に僕の方は赤塚さんがやっていたことより何回りも小さいというか。あんなに予算ないですからね 笑
あとあんなにお酒飲めないですね、好きですけれど。でも飲みたくなる気持ちってわかりますよ。
新しいものを探そうとするときに、自分の中に何かあるんじゃないかなって思っちゃうんですよね。お酒飲むと普段隠れてる自分の中の何かが出てこないかな?って期待するでしょ。
坂本:しりあがりさんの最近の作品はギャグとは少し離れた終末感漂うお話が多いですが、ご自身の中で変化があったんでしょうか
しりあがり:ギャグはもう20年前からあんまりちゃんとは描いてないんです。
笑いって大切だけれど笑えるには世の中には安定して豊かじゃないと商売にならないじゃないですか。だからダメになってく世の中を見て、笑ってる場合じゃないな、みたいな。
「方舟」とか「徘徊老人ドン・キホーテ」とかってヤバいよ、こうなっちゃうよ、みたいな暗いマンガばっかりずっと描いていたんです。
で、3.11が来てもう暗いマンガはいらないなって思って、明るいマンガを描きたいと思ったんです。
坂本:赤塚さんがギャグのある意味極北まで行ったと思うんですけれど、しりあがりさんの最近の作品を読むとその先を開拓されている気がするんですね。
それはもうギャグですらないというね。
しりあがり:そうですね、でもやっぱり笑えないとね。笑いって難しくて、さっき驚きが大切だって言いましたけれど、安心も大切なんですよね。
脳学者の人に脳の働きとして笑いってどんな役割ですか?って聞いたときに教えてもらったんですけれど、安心したときに笑いって出るそうなんです。
じゃあなんでスラップスティックとか人が失敗したり危険な目にあうもので笑うんですかって聞いたら、あの人は危険な目にあっているけれど自分は大丈夫だって笑うんです。
酷いですよね 笑
坂本:それで安心するんですね 笑
しりあがり:子供も大人が失敗すると笑うじゃないですか。あれも俺の方がうまくできるぞってことなんでしょうね。
笑いってその自分は大丈夫ってことと驚きがセットになっているんですよね。だから難しいんですけれど、驚くにしてもどこかにベースは必要で
あるリアリティをベースにして変なことをしないと笑いにならないんです。
例えば赤塚さんの後期の作品とか、僕もそういうところあるんですけれど、どんどん面白いことをしようとしてベースがなくなってしまうんですよね。
そうすると自分ではベースがあるつもりなんだけれど、それはとても狭いものでわかる人も限られてしまう。だから新しさと安定感という共通の足場みたいなもののバランスは難しいですね。
坂本:変貌していくことで常に新しいことを開拓しているってことでもありますよね。
しりあがりさんの作品の表紙は、本作のポスターやパンフレットもデザインして頂いた祖父江慎さんと一緒にやられていますよね。
しりあがり:祖父江とは多摩美の漫研で同じだったんですけれど、祖父江ばっかり赤塚さんと会ってしかも映画にまで出やがって…!ってちょっと嫉妬しているんです 笑
でもホント祖父江って赤塚さんのキャラクターみたいですよね。
坂本:ホントそうですよね。というところで本日はありがとうございました
しりあがり:ありがとうございました。
場内では終始笑いが漏れるにぎやかな雰囲気でしたが、同時に人間の脳内における笑いの役割や、赤塚作品のメタな笑いについてなど、何度もなるほど!と膝を打ってしまうトークとなりました。
しりあがり寿さんありがとうございました!
しりあがり寿さんの展覧会の詳細はこちら▼
「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」
16.06.22